社内ネットワークの構築やネットワークカメラを設置する際には、PoE機器の活用が有効です。しかし、PoEを有効活用するためには、メリット、対応機器の選び方などを把握しておかなくてはなりません。ここでは、PoEとはどのようなものなのか、規格の種類やメリット注意点、機器の選び方、Q&Aをご紹介します。
PoEとは
PoE(Power over Ethernet)とは、イーサネットポートからイーサネットケーブル(通常のLANケーブル)を使用して受電機器に電源を供給する技術のことです。
イーサネットケーブルでネットワーク接続機器とつながってさえいれば給電が可能なので、PoE接続していれば別途電源を確保する必要がありません。
PoEの使用用途
PoEはIP電話機やネットワークカメラ、Wi-Fiアクセスポイント、照明器具などに適しています。電源ケーブルが不要なため、遠隔地に配置される機器に便利です。特に、監視カメラなどで多く使用されますが、給電可能機器数や電源容量には注意しなくてはなりません。以下で、それぞれの使用用途について解説します。
ネットワークカメラ
PoEがあれば、電源供給がない場所でもイーサネットケーブルを通じてネットワークカメラを設置できるため、非常に便利です。建物の角や高い位置など、電源供給が難しい場所でもカメラを設置できます。ネットワークカメラは主に防犯や監視用途で活用され、特に商業施設や公共スペースでの使用が一般的です。
Wi-Fiのアクセスポイント
PoEを使用すると、屋外や天井など電源を確保しにくい場所でも無線アクセスポイントを設置することが可能です。広範囲にわたるWi-Fiカバレッジを確保できるようになります。大規模なオフィス環境や公共スペース、さらには屋外イベントで特に有用です。
IP電話
オフィス環境では、PoEを活用することでIP電話の設置が容易になります。電源と通信を1つのケーブルで賄えるため、デスク周りがすっきりと整理され、配線が簡単です。また電話の位置を変更する際も、新たに電源を確保する必要がないため、柔軟性が向上します。
PoEの種類
PoEにはいくつかの規格があります。ここでは、一般的な規格を5つご紹介します。
1.PoE(IEEE 802.3af)
最初に標準化されたPoE規格で、最大15.4Wの電力を供給します。アンテナ付き無線LANアクセスポイントや、IP電話などの低電力消費デバイスでの使用がおすすめです。電源供給が難しい場所でもデバイスを設置し、運用することが可能になります。
2.PoE+(IEEE 802.3at)
IEEE 802.3afのアップデート版ともいえる規格で、最大30Wをサポートします。複雑な監視・防犯カメラシステムなどの高電力消費デバイスにも対応できるのが特徴です。大規模なビルや施設での監視システム構築などで、広く使用されます。
3.PoE++(IEEE 802.3bt)
4PPoEとは称されます。タイプ3(最大60W)とタイプ4(最大90W)の2つのクラスがあるのが特徴です。パソコンやテレビ、ビデオ会議システム、LEDライトなどの高消費電力デバイスに適しています。オフィス環境や、商業施設での多機能デバイスの運用に適しているでしょう。
4.UPoE(Universal Power over Ethernet)
シスコによって開発された規格UPoEは、ツイストペアケーブルの4対にて60Wの給電をします。PoE/PoE+の上位互換となりUPoE対応機器はPoE/PoE+でも使用できます。
5.PoH(Power over HDBaseT)
企業連合HDBaseT Allianceによって開発されたこの規格は、電力供給をイーサネットケーブル1本で行います。また、ツイストペアケーブルの4対にて95Wの給電をします。
PoE対応機器のメリット
PoE対応機器を活用することで、以下のようなメリットが得られます。
・電源工事が不要
・省配線
・設置場所の柔軟性
それぞれの内容を確認しておきましょう。
電源工事が不要
PoE対応機器は、LANケーブルを通じて電力供給されるため、電源線を敷設する必要がないため 省配線化により 工事費用を削減できます。電気工事をする必要がありません。設置場所の自由度が高まり、工事費用を削減できます。さらに、専門的な電気工事の知識がなくても、簡単に設置や移動が可能です。
省配線
PoE機器は電源ケーブルやACアダプタが不要なため、シンプルな配線を実現できます。見栄えがよく、修理もしやすいのがメリットです。また配線が少ないことで、トラブルの原因を特定しやすくなり、メンテナンスも容易になります。
設置場所の柔軟性
監視用のネットワークカメラや無線アクセスポイントは屋外や天井に設置されることが多いですが、PoE対応機器なら電源がない場所でも柔軟に設置できます。設置場所の制限が大幅に減少し、最適な位置に機器を設置することが可能です。
PoE対応機器の注意点
PoE対応機器を扱う場合には、いくつか注意しなければならない点があります。以下で、主なポイントを確認しておきましょう。
機器の導入コストと電源工事費用の確認
PoE対応のスイッチングハブやカメラなどは、非対応のものと比べて価格が高くなります。ただし、端末側の電源工事が不要のため電源工事や配線のコスト削減により、トータルのコストは抑えられる可能性が高いでしょう。
また、運用後スイッチングハブの空きポートに差し込むことによりにも増設にも有利な配線方法と考えています。
設置場所の環境温度に注意する必要がある
設置場所の環境温度に注意する必要があります。特に、密閉された空間や高温環境下での使用では、機器や部材の保証温度範囲を注意して選定を行うことが重要です。
距離に制限がある
PoE給電は規格上、最大で100mまでの距離でしか利用できません。長距離の給電が必要な場合は注意が必要です。
電力供給の安定性に注意しなくてはならない
大容量のデバイスを接続する場合や複数のデバイスに接続する場合には、十分な電力供給を確保する必要があります。
適切な電力管理やバックアップ電源の設置などへの考慮も必要です。また、機器の故障や電力供給の問題がネットワーク全体に影響を及ぼさないよう、適切なネットワーク設計が求められます。
PoE機器対応ハブ・LANケーブルの選び方
PoEを導入する際には、適切なPoE機器対応ハブとLANケーブルを準備することも必要です。ここでは、それぞれの選び方について解説します。
PoE対応のスイッチングハブを選ぶポイント
PoE対応スイッチングハブを選ぶときには、以下のポイントに留意が必要です。
・給電ポート数:接続するPoE対応機器の数に合わせて、スイッチングハブの給電ポート数を選びます
・給電能力:ネットワークカメラなどの最大消費電力を考慮して、スイッチングハブの1ポートの給電能力(PoE、PoE+、PoE++)を確認します
・管理機能が必要かどうか確認する。必要な場合は管理したい項目が備わっているかを確認する必要があります。
・導入前に貸出機など実機で確認することもお勧めです。
PoE対応のLANケーブルを選ぶポイント
PoEを導入する際に、適切なLANケーブルを選ぶことが重要です。以下のポイントを押さえて、必要なPoEのクラスに対応したLANケーブルやコネクタを選びましょう。
ケーブルやコネクタには規格でカテゴリやクラスが設定されており、それぞれのカテゴリやクラスに応じて選ぶこともポイントです。
Cat5e以上のケーブルを選ぶ
PoE給電にはCat5e(カテゴリ5e)以上の規格のケーブルが必要です。Cat5e以上の規格には、他にCat6、Cat6a、Cat7、Cat7A、Cat8.1、Cat8.2があります。
このカテゴリはIEEEの通信規格に応じたコンポーネント(ケーブルやコネクタ等の部品)の規格となっておりPoEのクラスとは異なります。
ケーブルは導体の断面積や撚線の本数などに影響することがあり、コネクタは製品によって対応しているPoEの規格が異なります。
PoEの種類に対応したケーブル・コネクタを選定しましょう。
ケーブルの見分け方を理解する
手元にあるケーブルのカテゴリを確認したい場合、ケーブルの印字や箱を見てみましょう。その数字や文字がカテゴリを示しています。”ANSI/TIA”と”ISO/IEC”では表記が異なり、ANSI/TIAではがあれば”CAT○”という表記になり、ISO/IECでは”Class○”という表記になります。仕様書の記載内容やケーブルの印字で対応したカテゴリを確認することが可能です。ケーブルの印字や仕様書にPoEの表記がない場合はメーカーに対応しているPoEの規格を問い合わせしてみましょう。
コネクタの選び方
コネクタもケーブルと同様に”ANSI/TIA”と”ISO/IEC”の表記があります。ケーブルもしくはコネクタのどちらかに下位の位の製品が混ざってしまうと、原則としてパッチコードは下位のレベルになってしまいます。ケーブルに合わせた適切なコネクタ選定が必要になります。また、クラスとは別にPoE規格を表記するため、PoEのクラスについては仕様書で確認をすることが望ましいです。
PoEに関するよくある質問
最後に、PoEに関するよくある質問と回答を3つご紹介します。導入前に確認しておくと安心でしょう。
Q1:PoE対応ハブにPoE非対応の機器を接続しても大丈夫ですか?
はい、PoE対応ハブにPoE非対応の機器を接続しても問題ありません。PoEスイッチは、PoE対応デバイスと非対応デバイスを同時に接続して動作させることが可能です。
IEEE 802.3af規格に準拠したPoEスイッチは、デバイスに電力を供給する前に検知と識別を行い、PoE対応デバイスにのみ電力を供給します。
Q2:PoEの最大伝送距離はどれくらいですか?
PoEで給電可能な距離は、イーサネット規格の最大伝送距離と同様に、最大で100mです。ただしこれは「太い単線」の場合であり、「細径線」「より線」の場合はノイズの影響を受けやすいため、給電距離は制限されます。
給電が必要な距離が長い場合には、高品質のLANケーブルを使用することがおすすめです。
Q3:PoE対応スイッチとPoEインジェクターの選び方は?
PoE対応のネットワークデバイスでは、LANケーブル1本で動作させることが可能です。PoE非対応の機器がある場合は、PoEインジェクターを追加する必要があります。また、PoEスイッチとPoEインジェクターの違いを理解することで、適切な選択ができます。
PoEスイッチとは、ネットワークの集線装置にPoE給電機能が加わったものです。単体で複数台の機器に給電できるのが最大のポイントだといえます。
PoEインジェクターは、PoEに対応していないスイッチングハブにPoE機能を追加するデバイスです。基本的には1台のデバイスに給電することを目的としていますが、製品によっては複数のデバイスに給電できるものもあります。設置が簡単で、柔軟性と拡張性を向上させられるのがメリットです。
これらを選ぶときのポイントは、以下の通りです。
・PD(受電機器)の数を把握:受電機器の数を確認し、それに見合ったポート数を備えたPoEインジェクターを選びます
・PoE規格を調べる:PoE、PoE+、PoE++などの規格があるため、給電力に合わせて選定します
・電源電圧に配慮:受電機器の電圧・電力を確認し、適切なPoEインジェクターを選びます
まとめ
PoEは、イーサネットケーブルを通じてデータと電力を同時に供給する技術で、ネットワークカメラやWi-Fiアクセスポイントなどに有効です。PoE対応機器は電源工事不要、省配線、設置場所の柔軟性といったメリットがありますPoEスイッチングハブは複数機器に対応可能ですが、PoEインジェクターは非対応機器にPoE機能を追加します。PoE機器選定には給電ポート数、給電能力、規格などを考慮しましょう。
日本テレガートナーでは、PoEに関するさまざまなネットワーク機器、コネクタ、ケーブル等を取り扱っています。ネットワークの構築や機器選定などで課題がある場合は、ぜひ日本テレガートナーへお気軽にご相談ください。